前回からの変化
前回レポートなし(比較対象なし)。本カテゴリは今回が初回のため、次回以降「前回(2026-09-04)との比較」として変化を追う。
今週の概観
この1週間はドル円の乱高下と、米国発の通商措置の相次ぐ発動が中心となった。ドル円は「有事のドル買い」で一時160円台まで戻したあと、日銀高田審議委員の利上げ発言を受けて158円台まで急伸し、円高方向に振れた(日本経済新聞)。通商面では、米国がドローン・部品への通商拡大法232条関税を9月3日付で発動したほか(JETRO)、対カナダでは1930年関税法338条に基づく初めての追加関税が8月22日に発動され、カナダも9月8日に報復関税で応じる予定であり(JETRO)、北米の通商摩擦が一段と緊迫化した。EUではCBAM(炭素国境調整メカニズム)の確定期間に向けた実務手続きが進み、対EU輸出事業者は9月末の年次申告期限に向けた準備が必要になる。中国については海関総署・商務部の新規公告は今回のリサーチでは確認できなかった。
為替とヘッジ環境
| 通貨ペア/指数 | 週内の動き | 前週末比 | 主因 |
|---|---|---|---|
| ドル円 | 160円台前半→158円19銭(9/3、2週間ぶり安値) | 円高方向 | 日銀高田審議委員の連続利上げ示唆発言 |
| ドル円(週前半) | 一時160円台まで戻す場面あり | - | 米イラン関連報道による「有事のドル買い」、原油急伸・米金利上昇 |
週の前半は、米軍によるイラン関連拠点への攻撃報道を受けて原油先物が急伸し、インフレ警戒から米長期金利が上昇、「有事のドル買い」でドル円は160円台を回復する場面があった。しかし週末にかけて、日銀の高田創審議委員が9月2日の会見で「連続利上げは一般論としてあり得る」「これまでの0.25%刻みという目安は必ずしも固定的ではない」と発言したことを受けて円が全面高となり、ドル円は2週間ぶりとなる158円19銭近辺まで急落した(みんかぶ、日本経済新聞)。市場では9月会合での25bp利上げがほぼ織り込まれ、年内追加利上げも視野に入り始めている。
輸入側・輸出側への影響: 円高方向への振れは、輸入者にとってはドル建て仕入れコストの圧縮要因となる一方、輸出者にとっては円建て手取りの目減り要因となる。ただし週前半は逆に円安(ドル高)方向の場面もあり、週を通じてみると振れ幅が大きく方向感は定まっていない。
ヘッジ環境: 日銀の利上げ観測が強まれば日米金利差の縮小観測につながり、理論上はドル買い予約(輸入者のドルロング)のフォワードプレミアムが縮小方向に働きうるが、これは市場の見方の一つであり断定的な結論ではない。ヘッジのタイミングについての推奨は行わない。
なお、ユーロ円・オフショア人民元(CNH)・ドル指数(DXY)の週間値は、今回のリサーチでは信頼できる一次情報を確認できなかったため今回は掲載を見送る。
翌週の材料カレンダー: G20関連の会合、米雇用関連指標、日本のシルバーウィーク(祝日連休)期間中の薄商いでの当局動向などが挙げられている(みんかぶ)。日銀の次回会合日程を含め、確定情報は次回改めて確認する。
物流コストと航路
| 指数 | 値 | 前週比 | 取得時点(更新頻度) | 対象 |
|---|---|---|---|---|
| WCI(Drewry) | 4,465ドル/40ft | 横ばい | 2026-09-03(週次) | グローバル主要12航路 |
| Intra-Asia Container Index(Drewry) | 1,312ドル/40ft | +9% | 2026-09-03(週次) | アジア域内航路 |
Drewryの総合World Container Indexは9月3日時点で4,465ドル/40フィートコンテナと前週比横ばいで、太平洋横断航路の上昇とアジア-欧州航路の下落が相殺し合う形となった。一方、アジア域内航路のIntra-Asia Container Indexは9%上昇している(Drewry)。上海発のSCFI、バルクのBDI、航空貨物のTAC Indexについては、今回のリサーチで信頼できる直近1週間分の一次データを確認できなかったため、今回は数値の掲載を見送る(次回はDrewry・上海航運交易所・Baltic Exchange・TAC Indexを直接確認する)。
航路・港湾の状況: 紅海情勢の悪化を受け、CMA CGMやマースクなど主要船社は2026年3月時点でスエズ運河通航を停止し、喜望峰(南アフリカ)経由への迂回を継続している。喜望峰迂回により、航路によっては輸送日数が10日程度、往復では通常のスエズ運河経由に比べて20〜30日程度増加するとされる(proeyes.co.jp)。今週時点で通航再開などの新たな動きは確認できず、迂回体制がそのまま継続している。パナマ運河の通航状況、燃油サーチャージ(BAF)の改定告知については、今回確認できる新しい情報がなかった。
主要国の貿易ルール変更
米国
1. ドローン・部品への通商拡大法232条関税(布告第11055号)
トランプ大統領は2026年8月13日、無人航空機システム(ドローン)およびその部品・部材を対象に、通商拡大法232条に基づく関税を課す布告に署名した。最大離陸重量25キログラム超で国家安全保障上機微性の高い機体・赤外線画像装置搭載機・ドッキングステーション等には100%、25キログラム以下のドローンには25%、部品には25%の関税が課される。高機微ドローン等は2026年9月3日(米東部時間午前0時1分)以降の通関分から適用が始まり、部品は「ブルーUAS許可リスト」等の対象品を除き2027年2月9日から適用となる。日本・韓国・台湾・EU・スイス・リヒテンシュタインからの適格品は、232条関税と一般関税率の合計を15%に軽減する優遇措置が適用される(英国は10%)(JETRO)。
- 対象品目: ドローン本体・部品(HSコードの詳細は今回確認できず、品目名ベースの情報)
- 税率: 100%/25%(区分による)、同盟国は合計15%上限
- 発効日: 2026-09-03(機体等)、2027-02-09(部品、経過措置あり)
- 影響: 輸出側(日本から米国へドローン・部品を輸出する事業者)は15%の優遇上限が適用され得るが、対象範囲や適用手続きの詳細は個別確認が必要であり、適用可否を断定はできない。輸入側(米国からの調達)への直接の関税影響は限定的とみられる。
2. 対カナダ通商関税法338条関税の発動
米国は2026年8月22日、1930年関税法338条に基づく初めての措置として、カナダ産の乳製品・アルコール飲料・自動車部品に最大50%の追加関税を発動した(JETRO)。これに対しカナダ財務省は8月25日、鉄鋼・乳製品・家電・農業機械・パルプ紙・電子機器等を対象に品目ごと15%・25%・50%の対抗関税を2026年9月8日午前0時1分から発動すると発表した(発効前・決定済み)(JETRO)。
- 対象品目: (米側)カナダ産乳製品・アルコール・自動車部品、(加側)鉄鋼・乳製品・家電・農業機械・パルプ紙・電子機器等
- 税率: 15%/25%/50%(品目区分による、双方向)
- 発効日: 米側2026-08-22(発効済み)、加側2026-09-08(決定済み・未発効)
- 影響: 日本企業への直接の関税対象ではないが、北米サプライチェーン(自動車部品・乳製品等)の調達コスト変動や、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の先行き不透明化を通じて、北米向け輸出入の代替調達先としての機会・リスク双方が生じ得る。
このほか、強制労働関連の追加関税(通商法301条、対象60カ国・地域に10%または12.5%)は2026年7月24日付で既に発効しており、今週も稼働を継続している。
EU
CBAM(炭素国境調整メカニズム)の確定期間に向けた実務手続きが進展
欧州委員会は2026年8月14日に非EU事業者向けのCBAM実施ガイダンス文書10本を、8月24日に検証・認定に関する追加ガイダンスを公表した。9月1日からはCBAM登録簿(レジストリ)への検証機関のアクセス手続きが始まっている(ICAP)。
- 対象品目: 鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・水素・電力等(CBAM対象品目、確定期間)
- 制度上の日程: 年次申告期限は当初の2026年5月31日から2026年9月30日に延期。証書購入の開始は2027年2月1日に延期され、2026年の証書購入義務はないが、2026年輸入分の金銭債務自体は発生し、初回の証書提出期限は2027年9月30日とされている
- 発効日/適用開始: 制度自体は稼働中、年次申告期限が2026-09-30に延期(決定済み)
- 影響: 輸出側(対EU輸出でCBAM対象品目を扱う日本企業)は、9月末の年次申告に向けた排出量算定・報告実務の確認が必要。輸入側(EUからの輸入)への直接影響はない。
参考として、EU鉄鋼セーフガード後継措置(年間輸入枠1,830万トン、超過分50%関税)は2026年7月1日から適用中で今週の新規変更はなく、EUDR(森林破壊防止規則)も大企業2026年12月30日・小規模零細企業2027年6月30日の適用開始スケジュール(2025年12月に再延期が決定済み)のまま今週の新規動きはない(EY Japan)。
中国
今週(8月29日〜9月3日)については、海関総署・商務部による新規の一次公告は今回のリサーチでは確認できず、「今週は該当なし」とする。
参考として、商務部は2026年8月5日、米国土安全保障省(DHS)による「強制労働」を理由とした対中制裁への対抗として、米企業・団体6社を対抗リストに追加するとともに、ドローン・関連部品・関連技術の対米輸出について個別審査を厳格化する措置などを発表している(JETRO)。これは前週以前の措置であり、今週の新規発表ではない。
また、中国税関総署令第280号による「輸入食品海外製造企業登録管理規定」の新制度は2026年6月1日に施行され、2026年6〜8月が移行期の「高リスク期間」と位置付けられており、書類不備による輸入不許可・通関遅延のリスクが引き続き指摘されている。日本の食品輸出事業者への実務影響は次節で扱う。
日本側の制度・通関実務
中国向け食品輸出企業登録の移行対応: 中国税関総署令第280号に基づく新しい「輸入食品海外製造企業登録管理規定」が2026年6月1日から施行されており、2026年6〜8月は移行期の「高リスク期間」とされている。中国向けに食品を輸出する日本企業は、登録内容の不備・更新遅延が輸入不許可や通関遅延に直結しうるため、農林水産省の案内に沿った登録状況の確認が引き続き必要である。高リスク期間が9月以降どう扱われるかは今回確認できておらず、次回以降フォローする。
実行関税率表: 税関が公表している実行関税率表は2026年7月9日版が最新であり、今週時点で新たな関税定率法改正・税関通達の一次公表は確認できなかった。
需要と貿易統計
財務省が2026年8月28日に公表した8月上旬(1〜10日)分の貿易統計速報によれば、輸出額は3兆6790億円(前年同月比+15.5%)、輸入額は3兆4610億円(同+25.8%)、貿易収支は2171億円の黒字だった(lnews)。
あわせて、8月20日に公表済みの7月分速報では、輸出額11兆5118億円(前年同月比+23.2%、11カ月連続増)、輸入額12兆1463億円(同+27.8%、6カ月連続増)、貿易収支は6345億円の赤字(3カ月連続の赤字)だった。品目別では、輸出は半導体等電子部品(+49.1%)、半導体製造装置(+40.9%)、自動車(+19.5%)が伸びた一方、輸入は原油(+87.8%)、半導体等電子部品(+79.7%)、非鉄金属(+67.7%)が急増している。輸出入とも高い伸び率だが、原油価格や為替変動など複数要因が絡んでいるとみられ、要因の分解は次回以降のフォロー課題とする。
来週までに確認すべきこと
- カナダの対米報復関税(9月8日発動予定、15%/25%/50%)の対象品目確定版と実施状況
- 米国ドローン232条関税(9月3日発効)について、同盟国優遇税率(合計15%)の適用対象・手続きの詳細
- CBAM年次申告期限(9月30日)に向けた、対EU輸出(鉄鋼・アルミ等)事業者の報告準備状況
- ドル円が158円台からどちらに振れるか(日銀会合日程、米雇用関連指標、G20関連会合の結果)
- 中国のGACC食品製造企業登録「高リスク期間」について、9月以降の運用と通関遅延の実例有無
