前回からの変化

変わったこと(変化・新規)

  • ドイツとフランスが欧州委員会に対し、米国の通商法301条(不公正な貿易慣行に迅速な市場アクセス制限で対抗できる仕組み)型の対中通商防衛ツールの開発加速を求める共同文書を推し進めていることが判明した。中国商務省は9月29日、EUが対中制限措置を導入すれば「断固として対抗する」と警告した。前回までの報告には無かった欧州発の新規動向(AzerNews)。
  • 日本・米国・欧州が参加する国際枠組み「鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム(GFSEC)」が9月30日、米ウィスコンシン州で閣僚級会合を開き、中国を念頭に鉄鋼製品の迂回輸出を監視する枠組みの構築・強化で合意した。前回報告には無かった新規の多国間合意(日本経済新聞)。
  • 米軍が9月30日、2003年のイラク戦争後続いた駐留を完全に終了した。米国の中東への軍事関与縮小を象徴する出来事で、地域の「盟主不在」による力の空白拡大への懸念が新たに浮上した(日本経済新聞)。
  • トルコの政府系防衛大手アセルサンのアフメト・アクヨル社長兼CEOが、防空システムや水中ドローン防衛の分野で日本との協力に意欲を示していることが判明した。前回までに無かった新規の日本を名指しした動き(日本経済新聞)。
  • 英国の情報機関MI5が9月30日、人工知能(AI)やサイバーセキュリティー分野の共同研究を通じ、中国国家安全部(MSS)と関係する機関が英国関連の研究者100人以上から意図せず協力を得ているとする報告書を公表した。前回報告には無かった新規動向(日本経済新聞)。

昨日と同じこと(継続)

  • 中国は岩屋前外相との会談でも台湾発言の是正要求の原則論を崩しておらず、外務省幹部は「中国の主張に大きな変化はない」との見方を示した。前回報告した中国の対日圧力は解消していない(読売新聞(Infoseekニュース配信))。
  • イエメンの親イラン武装組織フーシ派によるサウジアラビアへの攻撃と、これを受けたサウジアラビア・トルコ・パキスタンの集団防衛への誓約、トランプ米大統領によるイランのホルムズ海峡開放提案拒否を巡る米イラン間の駆け引きは、前回報告時点から目立った新展開は確認できていない。

要因の連続性

  • 継続要因: 中東の地政学リスク(フーシ派攻撃・イランとの対立)は前回に続き日本のエネルギー調達コストの不確実性要因として働いている。中国による対日圧力(台湾問題)も前回に続き日中関係の懸念材料として継続している。
  • 新規要因: 欧州における対中貿易防衛の動き(独仏・EU)、日米欧の鉄鋼迂回輸出監視の枠組み合意、英MI5の研究セキュリティー警告が、「西側諸国の対中経済安全保障強化」という要因として新たに加わった。米軍のイラク撤収による中東の「力の空白」拡大懸念も新規要因である。
  • 解消した要因: 該当なし。

今日の要点

地域 出来事 日本への影響 段階
アジア(日中) 中国が岩屋前外相との会談でも台湾発言の是正要求を継続、日本政府は静観 日中関係の膠着継続、対中外交・民間交流への影響を注視 継続(進展なし)
欧州 独仏がEUに対中通商防衛ツールの導入加速を要求、中国商務省が対抗を警告 欧州発の対中摩擦は日本企業のサプライチェーン・レアアース調達にも波及しうる 検討中(EU通商委員が10月8〜9日訪中)
国際機関 日米欧がGFSEC閣僚会合で対中鉄鋼迂回輸出の監視枠組みに合意 国内鉄鋼業界の不公正貿易対策が強化される 決定済み(合意)
中東 米軍がイラク駐留を完全終了、「盟主不在」の中東で力の空白拡大への懸念 中東依存度が高い日本の原油調達にとってエネルギー安全保障上のリスク要因 決定済み(撤収完了)
中東(トルコ) トルコの防衛大手アセルサンが防空・水中ドローン分野で日本との協力に意欲 防衛装備・技術協力の選択肢拡大の可能性 検討段階(意向表明)

米国

米国のトランプ大統領は9月25日、ワシントンの国立公文書館に中国の習近平国家主席夫妻を案内した際、米側がサンフランシスコ平和条約の文書を展示しようとしたところ、中国側が見学直前に強く反発し内容が変更されたと、米公共ラジオ(NPR)の報道を基にした日本経済新聞が伝えた。同条約は台湾の最終的な帰属先を明確にしておらず、中国側はこれを問題視したとされる。9月23〜25日の米中首脳会談では関税引き下げなど8項目の合意が発表された一方、台湾問題では溝が埋まっていないことを改めて示すエピソードである。

日本への影響: 米中首脳会談後も中国が台湾の歴史的位置づけに神経をとがらせている実情は、高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁を巡る中国の強硬姿勢の背景とも重なる。日中関係の膠着が当面続く可能性を示唆する。

欧州

欧州連合(EU)と中国の通商摩擦が新たな段階に入った。ドイツとフランスは欧州委員会に対し、米国の通商法301条型の措置(不公正な貿易慣行に対し迅速な市場アクセス制限を可能にする仕組み)の開発加速を求める共同文書を推し進めている。これに対し中国商務省は9月29日、EUが対中制限措置を導入すれば「断固として対抗する」と警告し、提案を「保護主義的で一方的」と批判した(AzerNews)。EUのマロシュ・シェフチョビッチ通商担当委員は10月8〜9日に北京を訪問する予定で、欧州委員会は10月までに交渉の具体的な成果を求めているとされる。背景には、EUの対中貿易赤字の拡大、市場アクセス、産業の過剰生産能力、レアアースへのアクセスといった懸案がある。

また英国の情報機関MI5は9月30日、人工知能(AI)やサイバーセキュリティー分野の共同研究を通じ、中国国家安全部(MSS)と関係する研究機関が、英国関連の研究者100人以上から意図せず協力を得ているとする報告書を公表し、大学に対して関係の再点検を促した(日本経済新聞)。

日本への影響: EUが対中貿易防衛の新たな手法を模索する動きは、同様の課題(中国の産業の過剰生産能力・レアアース依存)を抱える日本の通商政策にとっても参考になりうる。英国の事例は、日本の大学・研究機関が抱える経済安全保障(技術流出対策)の課題とも重なり、同盟国間の情報共有強化につながる可能性がある。

アジア・オセアニア

日中友好団体トップとして訪中した岩屋毅・前外相は9月28、29日、王毅共産党政治局員兼外相、何立峰副首相とそれぞれ会談した。岩屋氏は会談後「日本との経済・民間交流に中国側は決して後ろ向きではない」と述べた一方、外務省幹部は「中国の主張に大きな変化はない」と述べ、高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁の是正を関係改善の前提とする中国側の原則論に変化がないとの見方を示した。木原稔官房長官は9月29日の会見で、岩屋氏の訪中について「民間団体の動向であり、政府としてコメントは控える」としつつ、「懸案や意見の相違があるからこそ、幅広い分野で重層的な意思疎通を行っていくことが重要だ」と述べるにとどめた(読売新聞(Infoseekニュース配信))。

日本への影響: 前回報告した中国の対日圧力は、岩屋氏の訪中を経ても実質的に後退しておらず、日中関係の膠着状態が当面続く可能性が高い。政府・民間双方のチャネルでの対話継続が、事態打開の鍵になるかどうか注視が必要である。

中東・アフリカ・中南米

米軍が9月30日、2003年のイラク戦争後続いた駐留を完全に終了した。イラクのザイディ首相は「新たな段階が始まった」と述べ主権確立を強調したが、米国の軍事的関与縮小により中東で「盟主不在」の力の空白が広がるとの懸念も出ている(日本経済新聞)。

イエメンの親イラン武装組織フーシ派によるサウジアラビアへの攻撃と、これを受けたサウジアラビア・トルコ・パキスタンの集団防衛への誓約、トランプ大統領によるイランのホルムズ海峡開放提案拒否を巡る米イラン間の駆け引きは、前回報告時点(9/29、9/30)から目立った新展開は確認できていない。

トルコの政府系防衛大手アセルサンのアフメト・アクヨル社長兼CEOは、防空システムや水中ドローン防衛の分野で日本との協力に意欲を示した。同社は実戦データを強みにアジア市場開拓を目指しているとされるが、具体的な協力先や合意内容は明らかにされていない段階である(日本経済新聞)。

日本への影響: 中東情勢の流動化は、原油調達の多くを中東に依存する日本にとってエネルギー安全保障上のリスク要因として引き続き注視が必要である。トルコ企業からの協力打診は、防衛装備移転三原則の下で日本が検討しうる国際協力の選択肢の一つとなる可能性があるが、現時点では意向表明の段階にとどまる。

国際機関・多国間の動きと、日本を名指しした動き

日本・米国・欧州が参加する国際枠組み「鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム(GFSEC)」は9月30日、米ウィスコンシン州で閣僚級会合を開き、鉄鋼製品の迂回輸出を監視する仕組みの構築・強化で合意した。反ダンピング措置が不透明な流通経路によって回避される事態を防ぐため、溶解・鋳造段階の情報を事業者から収集する体制を各国が整えるよう共同声明に盛り込んだ。中国を念頭に置いた措置とされる(日本経済新聞)。

日本への影響: 迂回輸出の監視強化は、不公正な安値輸入にさらされてきた日本の鉄鋼業界にとって直接的な追い風となる。今後、各国がどこまで実効性のある監視体制を構築できるかが焦点となる。

今後数日の注目日程

  • 日本政府が中国の台湾発言是正要求に今後どう対応するか(公式な反応の有無)
  • EUのシェフチョビッチ通商担当委員による10月8〜9日の北京訪問、対中通商協議の行方
  • フーシ派とサウジ主導有志連合の対立が沈静化するか、原油供給への実害が生じるか
  • トランプ大統領とイラン側の追加協議の有無、ホルムズ海峡情勢の推移
  • トルコのアセルサン社と日本企業との協力関係が具体化するか