前回からの変化
変わったこと(変化・新規)
- 前回まではOpenAIとAnthropicの新モデル合戦だった構図に、GoogleがGemini 4 Argonで本格参入した。pasqualepillitteri.itの集計では、比較対象18項目中12項目でAnthropicの「Claude Opus 5.5」とOpenAIの現行モデル「GPT-6 Astra」を上回り、3社横並びから「Googleが指標上で先頭に立つ」局面に変わった
- 前回は「Astraの後継モデルを安全性理由で公開中止」という守りの動きだったOpenAIに対し、本日は競合のGoogleが攻めの発表を行うという対照的な展開になった。中止された次世代版「GPT-6.1 Astra」はなお公開見送りが続いており、現行の「GPT-6 Astra」がOpenAI側の基準であり続けている(Al Jazeera)
- 前回まで「新モデルの性能」に集中していたAnthropicの動きに、9月23日開設の「Claude Marketplace」という新しい軸が加わった。2,000以上の連携ツール・エージェントを取引する場を整備し、モデル単体の性能競争からエコシステム囲い込みへと戦線が広がった
- 新興・注目枠でも、前回の話題(TypeSafe AI・Convai)とは異なる種類の新顔として、訓練基盤そのものが違うXing4.0-29B-A4Bが登場した
昨日と同じこと(継続)
- Anthropicの新製品投入ラッシュは継続。前回の「Claude Sonnet 5.5」公開に続き、本日はマーケットプレイスというエコシステム面での展開も進んでいる
- AIエージェントに人格・実行権限を持たせる流れが継続。前回のNVIDIA「Open Agent Safety Platform」に続き、本日はManusの「Cue」やMetaの「Muse for Small Business」など、エージェントに実務権限を持たせるサービスが相次いだ(Pandaily、Meta公式)
要因の連続性
- 継続要因: AIエージェントの暴走・権限逸脱への懸念が、前回のNVIDIA安全基盤・SAFA構想に続き、本日は米FTCがAnthropic・OpenAI・METRを対象に正式な調査を開始するという規制当局の動きにまで広がった(BNN Bloomberg)。ただし本日時点でモデル提供や利用条件そのものへの変更はない
- 新規要因: Googleが具体的な数値でAnthropic・OpenAIを上回ったことで、3社の性能競争に新しい比較軸が加わった
- 解消した要因: なし。OpenAIの「GPT-6.1 Astra」公開停止は本日も解消していない
本日のハイライト
9to5Googleによると、Googleの研究部門Google DeepMindは9月30日、新フラグシップモデル「Gemini 4 Argon」を発表した。最大の特徴は一度の応答で書ける分量が従来の6万4千トークンから100万トークンへと大幅に拡張されたことで、ライブラリ全体の移行作業や複数の根拠資料を使う法律意見書の作成など、長い作業を一度の実行でまとめて終えられるようになったという。pasqualepillitteri.itが伝えた社内ベンチマーク集計では、ソフトウェア開発タスクの「DeepSWE v1.1」で77.9%を記録し、Anthropicの「Claude Opus 5.5」(74.2%)、OpenAIの現行モデル「GPT-6 Astra」(74.1%)をわずかに上回った。脆弱性修復を測る「CWE-bench v1」では68%で首位タイ、業務自動化を測るZapierの「AutomationBench」では51.3%で単独首位という。価格は入力100万トークンあたり2ドル、出力同10ドルの導入価格で、まずはGoogle AI Ultra契約者とAPI有料利用者、サイバー防御関係者向けの「Fairwind」プログラム参加者から提供が始まる。いずれもGoogle自身が測定した数値であり、第三者による独立検証はまだ出ていない。
もう一つの注目は、中国電信傘下の星辰AGIが公開した新モデル「Xing4.0-29B-A4B」である。総パラメータ290億のうち実際に動くのは40億という専門家混合(MoE)構成自体は珍しくないが、特筆すべきは学習基盤が最初から最後までNVIDIA製GPUを使わず、ファーウェイの「Ascend」NPUと国産フレームワーク「MindSpore」だけで完結している点で、同社はこの規模のモデルとしては初の事例だとしている。学習の共同最適化によりスループットを約96%改善したとも説明しており、NVIDIA以外の学習基盤でも大規模モデルが実用レベルに届くことを示す技術的な一例といえる。
主要企業のリリース
Gemini 4 Argonの詳細は上記の通り。Googleはコーディング・知識労働・サイバー防御を重点領域と位置づけており、特にサイバー防御領域では信頼できる防御担当者向けに先行提供する慎重な展開方法を取っている(9to5Google)。
Anthropicは9月23日、gHacksによると「Claude Marketplace」を公開した。連携ツール(コネクタ・プラグイン)、Claude搭載のエージェント・製品、導入支援パートナーの3区分で2,000以上の出品をまとめて検索できる。連携ツールは「MCP(Model Context Protocol、AIが外部サービスを呼び出す際の共通規格)」と「Agent Skills」という仕組みで開発者が作成し、Atlassian・Google・Microsoft・Notion・Salesforceなどが提携先として名を連ねる。Anthropicは取引手数料を取らない方針で、企業契約のAnthropic利用枠を第三者ソフトの購入にも充当できるようにした。モデル単体の性能競争だけでなく、周辺エコシステムの厚みで囲い込む狙いがうかがえる。
DeepSeekは、Hugging Face上で「DeepSeek-V4.1-Flash」をMITライセンス(改変・商用利用・再配布が無償で自由な許諾条件)の完全オープンウェイトで提供している。総パラメータ5,520億の専門家混合構成で実際に使われるのは応答生成時で160億程度、コンテキスト長は最大100万トークン。詳細は次の「研究・技術」で扱う。
新興AI・注目の新顔
星辰AGIの「Xing4.0-29B-A4B」(Hugging Face)は、ライセンスがApache 2.0のオープンウェイトで、コーディング評価「SWE-bench Verified」で75.0点を記録するなど、実用に耐える性能を示している。作り手は中国電信傘下のAI技術会社で、既存のLLMとの違いは性能そのものより学習基盤にある。NVIDIA製GPUを使わない大規模モデル学習という制約下でも競争力のある性能を出せることを示した点が技術的な新しさであり、対中輸出規制下での代替学習基盤の実用性を占う事例として注目される。試すにはHugging Faceから重みを入手し、自前のGPUクラスタか対応する推論サービスを用意する必要がある。
AI開発手法
AIエージェント開発企業Butterfly Effectは、Pandailyによると9月28日、自社エージェント「Manus」の中核ハーネス(エージェントの思考・行動・記憶を制御する土台部分)を「Cascade」という新設計に刷新した「Manus 2.0」を公開した。内部テストでは、旧世代のハーネスに比べてトークン消費量を23.2%、運用コストを32%削減し、タスク完了までの時間も28.2%短縮したという。エージェントを安く速く動かすための土台設計の改善という、コーディングエージェントに限らず汎用エージェント全般に効く実践知見であり、再現には自前のエージェント基盤をCascadeのようなタスク分解・トークン節約設計に組み替える必要がある。
AIを利用した新しいサービス
ManusはCascadeの刷新と同時に、個人向けエージェントアプリ「Cue」を招待制で公開した。Pandailyによると、1体ごとに専用のメールアドレス・電話番号・電子ウォレット・クラウド上の作業用コンピューターが割り当てられ、複数のエージェントを連携させて動画制作やゲーム制作などをこなせるという。利用には招待コードが必要で、一般公開時期は明らかにされていない。
Metaは9月29日、Meta公式によると中小企業向けAIエージェント「Muse for Small Business」を発表した。Asana・Zoom・Intuit・Box・Canva・Slackといった業務ツールやInstagram・Facebookの事業用アカウントに接続し、顧客対応や業務管理を一括して代行する。既存の単体チャットボットと違い、業務システム全体の文脈を踏まえて動く点が特徴で、料金は既存のMuseアプリと同じく無料枠付きのサブスクリプション。一般提供が始まっており、地域限定の記載はない。
トレンドのAI活用法
特筆すべきトレンドなし。
LLM性能比較・得意分野
pasqualepillitteri.itが伝えたGemini 4 Argonの発表時ベンチマークによれば、ソフトウェア開発タスク「DeepSWE v1.1」ではArgon(77.9%)がClaude Opus 5.5(74.2%)・GPT-6 Astra(74.1%)をわずかに上回り、脆弱性修復を測る「CWE-bench v1」では68%で首位タイ、業務自動化の「AutomationBench」と動画理解の「LVBench」ではArgonが単独首位(それぞれ51.3%、91.7%)だった。いずれもGoogleが自社で実施した測定であり、条件をそろえた第三者による追試はまだ確認できていない。用途別に見ると、ソフトウェア開発タスクでは3モデルの差はごく僅かで、業務自動化・動画理解・セキュリティ対応といった分野でArgonが相対的に強みを示した形になる。なお、前回レポートで扱ったAnthropicモデル間のSWE-bench Verified比較(Claude Opus 5が96%で首位)自体に新しい動きはない。
研究・技術
arXivに公開された論文「DeepSeek-V4.1-Flash: Pushing the Limits of KV Cache Compression」は、推論時にモデルが保持する対話履歴のキャッシュ(KVキャッシュ)を圧縮する技術「SWA Bounded Replay」と「Compressed Sparse Attention 2」を提示している。Hugging Faceのモデルカードによれば、これにより1トークンあたりのキャッシュ容量を前世代の4分の1程度(890バイト)まで小さくしつつ、コーディング評価HumanEvalで79.4点、数学評価GSM8Kで93.0点を維持したとしている。この技術を使った「DeepSeek-V4.1-Flash」自体がMITライセンスの重み付きで既に公開されており、論文段階の理論にとどまらず、今すぐダウンロードして長文脈タスクの実運用コストを試せる状態にある点が実用面で評価できる。

