前回からの変化

前回(2026-10-08)との比較。このカテゴリは毎週木曜の週報で、前回は1週間前である。顔ぶれはすべて入れ替わっており、継続するトピックはない。

変わったこと(変化・新規)

  • 前回は日本の残土の入札サービス(ツチオク)と、インドの月額エアコン(Circolife)、通販運営の代行(Nuvr)という、実物の取引や運営を作り替える業態が中心だった。今回は詐欺情報の収集(Apate)、蚊の監視(Mosqitter)、体内時計の測定(TimeTeller)という、情報やデータを集めて売る業態が中心になった。
  • 話題の地域も、日本とインドから、オーストラリア、欧州、英国へ移った。

昨日と同じこと(継続)

  • 今回も、支払い元が個人でなく法人・機関である点は前回のCircolifeなどと共通している。Apateは銀行や通信会社、Mosqitterは英国の保健当局、TimeTellerは医療保険会社が相手である。

要因の連続性

  • 継続要因: 利用に応じた課金や、継続的に使われる仕組みを収益の軸にする動き。Mosqitterは機器の販売に監視サービスの月額課金を重ね、TimeTellerは保険会社が検査費用を負担する形を取る。
  • 新規要因: 詐欺の増加(Apate)、感染症の監視需要(Mosqitter)、治療の副作用を減らす個別化医療への期待(TimeTeller)が、今回の話題の背景として加わった。
  • 解消した要因: 前回の背景にあった、建設発生土の搬出先確認の義務化や設備投資を抑えたい事業者の需要は、今回は取り上げていない。

今週の概観

今週は、情報を集める入口を先に作り、その先で機関に価値を売る新業態を3件取り上げる。オーストラリアなどで使われるApateは、被害者のふりをするAIが詐欺師と延々と会話して情報を引き出す。Mosqitterは家庭用の蚊取り罠を、AIが蚊の種類を判別する感染症の監視網にしようとしている。ドイツのTimeTellerは、唾液の検査で体内時計を測り、治療のタイミングを個人ごとに決める医療を目指す。いずれも、14日にTechCrunchが取り上げた新しい企業で、ApateとTimeTellerは同社のスタートアップ大会「Startup Battlefield 200」に選ばれている。

新ビジネス特集

1. Apate(オーストラリア中心)— 被害者のふりをして詐欺師から情報を集める

何をするビジネスか Apateは、数千のAIエージェントを被害者に見立てて、通話、メッセージ、メール、SNSで詐欺師とやり取りさせ、銀行口座、暗号資産のウォレット、電話番号、不正なサイトといった情報を集める。集めた情報を、詐欺の被害に遭う側の銀行や通信会社に提供する。

何が新しいのか 従来の対策は事後対応が中心で、通信会社は番号を止めても詐欺師が新しい番号を取り、銀行は取引を監視してもその時点で顧客はすでに接触を受けている、と同社は説明する。Apateは詐欺師の側へ先に入り込み、被害が出る前に手口や口座を把握する点が従来と違う。日本で言えば、通話を長引かせて詐欺師の時間を奪う迷惑電話の対策を、AIで大規模に自動化したものに近い。

ビジネスモデル 銀行、通信会社、政府機関、公共事業者に、AIエージェント群の利用と、詐欺の傾向を分析する情報ポータルを提供する。料金水準は記事では示されていない。

状況 TechCrunchによれば、2026年8月に815万ドルのシード調達を実施し、累計の調達額は約1,000万ドル弱、従業員は20人である。同社の説明では、オーストラリアのコモンウェルス銀行では公表されている詐欺被害額が76%減り、TPGテレコムは約59万件の通話をApateのエージェントへ振り向けた。エージェントは累計で250万回の会話をし、詐欺師の時間を17年分費やさせたという。効果は同社の発表に基づく数字で、第三者による検証は確認できていない。ロンドン拠点の開設と米国での展開拡大を計画している。公式サイトは確認できなかったため、紹介記事のみを示す。 (出典: TechCrunch: Apate sends AI agents undercover to get scammed)

2. Mosqitter — 家庭用の蚊の罠を感染症の監視網に変える

何をするビジネスか Mosqitterは、熱、においと二酸化炭素で人の存在をまねて、感染を媒介するメスの蚊を誘い込む、薬剤を使わない罠を作っている。捕らえた蚊をAIで調べ、感染症が広がる危険を見張る事業へ広げようとしている。

何が新しいのか 蚊の罠は不快害虫の駆除用品として売られてきた。同社は罠そのものを、種類の判別と気象データを組み合わせて感染リスクを見積もる監視の端末に位置づけ直した。11月に始める監視システム「Febris」は、コンピュータビジョンで蚊の種類を見分け、湿度や天候と照らして感染のリスクを評価する。駆除の道具が公衆衛生のセンサーになる点が新しい。

ビジネスモデル 罠の販売と、監視サービスの継続課金の二本立てである。家庭向けの「Mosqitter Mini」が199ドル、広い空間向けの「Mosqitter Grand」が1,999ドル。Febrisは機関向けの月額型で、ダッシュボードや分析、データの提供を行う。

状況 TechCrunchによれば、稼働中の端末は5大陸で5,000台超(2022年は250台)、英国保健安全保障庁とヒースロー、ガトウィック両空港で取り組んでいる。これまでの調達額は190万ドルで、500万ドルを2回に分けて募集中である。2026年のハード売上は100万ドル超の見込みで、Febrisの2027年の売上は入札中の契約を前提に350万ドルと同社は見込む。これらは同社の見通しで、契約が決まるかどうかが課題となる。公式サイトは確認できなかったため、紹介記事のみを示す。 (出典: TechCrunch: Mosqitter is turning its mosquito traps into an AI-powered surveillance network)

3. TimeTeller(ドイツ)— 体内時計を測って治療のタイミングを決める

何をするビジネスか TimeTellerは、唾液から個人の体内時計(概日リズム)を測る検査キットを作るドイツのバイオ企業である。主な狙いはがん治療で、投薬の時間帯を患者ごとに合わせれば副作用を減らし結果を良くできるのではないか、という考えに基づく。

何が新しいのか 治療の薬は、誰にも同じ時間帯に使うのが一般的だった。TimeTellerは、人によって体内時計が違うことを測り、治療の時間帯を個別に決める医療の入り口を作ろうとしている。日本で言えば、遺伝子検査のように、個人の体質に合わせて医療を変える考え方を「時間」に広げたものに近い。

ビジネスモデル 検査キットをオンラインで消費者に直接売るほか、法人向けとして、加入者約1,200万人のドイツの医療保険会社テクニカー・クランケンカッセと費用負担の契約を結んだ。両者はより多くの加入者へ広げる意向である。

状況 TechCrunchによれば、創業者のアンゲラ・レロジオ氏はベルリンのシャリテ大学病院の研究から生まれ、拠点はハンブルクの医科大学、従業員は10人である。ただし、現在の消費者向けキットだけでは、がん治療の判断はできない。最適な投薬の時間帯は薬ごとに臨床試験で算出する必要があり、同氏自身が限界を認めている。懸念は、臨床的な裏づけが整うまで、検査の価値が限られる点である。公式サイトは確認できなかったため、紹介記事のみを示す。 (出典: TechCrunch: TimeTeller puts our internal clocks at the center of personalized medicine)

新ビジネスの潮流

今週の3件はいずれも、まず情報を集める入口(詐欺師との会話、蚊の罠、唾液の検査キット)を作り、その先で銀行、保健当局、保険会社といった機関に価値を売る形をとっている。ただしこれは3件の観察にもとづく見方であり、世界的な増加傾向と断定できる材料はまだない。収益の確実性は、Mosqitterのように機関との契約が決まるかどうかに左右される。 (出典: TechCrunch: Apate sends AI agents undercover to get scammed / TechCrunch: Mosqitter is turning its mosquito traps into an AI-powered surveillance network)