前回からの変化
前回(2026-10-15)との比較。このカテゴリは毎週木曜の週報で、前回は1週間前である。顔ぶれはすべて入れ替わっており、継続する個別のサービスはない。
変わったこと(変化・新規)
- 前回は詐欺師と会話するAI(Apate)、蚊の罠を使った監視(Mosqitter)、体内時計の検査(TimeTeller)という、情報を集める入口を作る業態が中心だった。今回は、薬の安全性の試験(Intero)、AIの買い物案内への露出(Azoma)、設計図の作成(Mach9)という、専門業務の工程を置き換える業態が中心になった。
- 話題の地域も、オーストラリア、英国、ドイツから、米国、カナダ、英国へ移った。
昨日と同じこと(継続)
- 前回に続き、買い手は個人でなく企業・機関である。Interoは製薬・食品・化学会社、Azomaは消費財メーカー、Mach9は土木・測量の事業者が相手である。
- 前回に続き、AIや新しい技術を使って専門的な作業の手間を減らす点も共通している。
要因の連続性
- 継続要因: 継続的に使われる仕組みに課金する動き。Interoは消耗品と受託研究、Azomaは継続的な最適化、Mach9はソフトの利用料で収益を作る。
- 新規要因: 米国食品医薬品局が動物実験に代わる方法を後押ししていること(Intero)。AIの買い物案内の普及でブランドが推薦を競うようになったこと(Azoma)。作業のボトルネックが、データの収集から処理へ移ったこと(Mach9)。
- 解消した要因: 前回の背景にあった、詐欺の増加や感染症の監視需要は、今回は取り上げていない。
今週の概観
今週は、専門業務の工程を新しい形で置き換える業態を3件取り上げる。Interoは、ヒトのiPS細胞から作った小さな腸の組織を、薬の試験用に製薬会社へ売る。Azomaは、AIの買い物案内に商品が薦められやすくなるよう、ブランドを支援する。Mach9は、土木の設計の下書きをAIで自動化する。いずれも、TechCrunchまたはTech Startupsが10月14日から21日に紹介した。
新ビジネス特集
1. Intero Biosystems(米国)— 動物の代わりに、ヒトの小さな腸で薬を試す
何をするビジネスか Interoは、ヒトのiPS細胞(さまざまな細胞に変えられる細胞)から作った、直径約1ミリの腸のオルガノイド(臓器の一部を再現した小さな組織)を、製薬・バイオ・食品・化学の会社に売っている。薬の安全性や効き目を試すのが用途である。
何が新しいのか 従来の試験は動物や、大腸内視鏡で採った組織、単純な細胞モデルが中心だった。同社の製品GastroScreenは、複数の種類の細胞を含み、実際のヒトの腸の複雑さに近づけた点が新しい。日本で言えば、動物実験の代わりに、ヒト細胞でできた試験用の「小さな臓器」を受託で供給する会社に近い。
ビジネスモデル 約100個単位でオルガノイドを出荷し、栄養液などの消耗品も売る。顧客の依頼で研究を行う有料の受託サービスも収益源になる。
状況 TechCrunchによれば、顧客は10社近く、2025年第4四半期から2026年第3四半期の売上は40万ドル超である。2025年に230万ドルのプレシード調達を行い、2024年創業で従業員は7人。同社はTechCrunchのスタートアップ大会に出場している。米国食品医薬品局が動物実験の代替を後押ししているが、同社は製薬会社の既存データと結果を照らす3段階の検証の2段階目にあり、人への反応を既存のモデルよりよく予測できるという証拠は、まだ積み上げの途中である。創業者はチャーリー・チャイルズ氏(CEO)とマデリン・アイケン氏(CTO)。 (公式: Intero Biosystems / 出典: TechCrunch: Intero Biosystems wants drugmakers to test on mini human intestines)
2. Azoma(カナダ・英国)— AIの買い物案内に薦められるよう、ブランドを最適化する
何をするビジネスか Azomaは、ChatGPTのようなAIの買い物案内で、消費財ブランドの商品が見つかり、薦められやすくなるよう支援するプラットフォームを運営する。同社はこれをエージェント型コマースの最適化(ACO)と呼ぶ。
何が新しいのか 従来の検索エンジン対策は、検索結果の順位を上げるものだった。Azomaは、AIの検索や買い物案内の回答に、商品がどう登場するかを追跡し、情報の不足を見つけて直す点が新しい。日本で言えば、検索対策(SEO)の支援会社が、AIの回答向けに作り替わったものに近い。
ビジネスモデル ブランドから利用料を受け取る形とみられる(料金は記事で示されていない)。AIでの見え方を売上に結びつける分析機能を開発中である。
状況 Tech Startupsによれば、2026年10月に1,120万ドルのシリーズAを調達した(主導はPuma Growth Partners)。2025年12月に400万ドルのシードも調達済みで、売上は過去1年でほぼ10倍、従業員は12人から40人に増えた。顧客はロレアル、ユニリーバ、マース、バイヤスドルフ、レキットなどである。創業者はマックス・シンクレア氏(元Amazon)とティムール・ルグエフ氏。拠点はトロントとロンドン。売上の伸びは同社の発表に基づく。課題は、AIの回答の仕組みが各社で変わりやすく、最適化の効果が長続きするかどうかである。 (公式: Azoma / 出典: Tech Startups: Azoma raises $11.2M)
3. Mach9(米国)— 測量データから、土木の設計図の下書きを作る
何をするビジネスか Mach9は、測量のデータ、レーザースキャン、画像を、土木設計に使える図面の下書きに自動で変換するソフトを提供する。技術者はその下書きを直して確定する。
何が新しいのか 同社は当初、測量のロボットなどハードウェアに取り組んでいたが、本当の詰まりは、データを集めることではなく処理することだと気づき、ソフトに軸を移した。従来のCADソフトと比べて処理が約10倍速く、センチメートル単位の精度を保つと同社は主張する。日本で言えば、測量会社が人手で行ってきた図化の作業を、AIが肩代わりするようなものに近い。
ビジネスモデル 土木・測量の会社向けのソフトウェアである(料金は記事で示されていない)。
状況 TechCrunchによれば、First Round CapitalとBessemer Venture Partnersの主導で3,400万ドルのシリーズAを調達した。非公開のベータ版で約100の顧客が2,500超の案件に使っている。テキサス州の道路の測量など、州全体の事業も扱った。速さと精度は同社の主張で、第三者の検証は記事では示されていない。創業者の一人はアレックス・バイコビッツ氏。公式サイトは確認できなかったため、紹介記事のみを示す。 (出典: TechCrunch: Mach9 raises $34M after pivoting to AI CAD software)
新ビジネスの潮流
今週の3件は、いずれも専門業務の工程のうち、手間のかかる一部分(動物実験、AIへの露出、図面の下書き)に特化し、企業向けに売る形をとっている。ただしこれは3件の観察にもとづく見方であり、世界的な増加傾向と断定できる材料はまだない。Interoは検証の途中で、Mach9は料金やベータ版からの拡大が、課題として残る。 (出典: TechCrunch: Intero Biosystems wants drugmakers to test on mini human intestines / TechCrunch: Mach9 raises $34M after pivoting to AI CAD software)

