前回からの変化

前回(2026-10-26)との比較である。先週月曜の回から1週間の変化をまとめる。

変わったこと(変化・新規)

  • 前回は火星衛星探査機MMXの打ち上げ成功が主役だったが、今週は、日本の基礎研究(理研のアト秒X線レーザーなど)と、国際共同の高エネルギー物理が中心になった。今週、MMXの新しい発表は確認できなかった(新規)
  • 前回「新しい発表はない」とした月探査では、NASAがアルテミスIIIの計画を、軌道上の試験飛行に変更したと報じられている。月面着陸は2028年を目指す(新規。NASASpaceFlight)
  • 国際宇宙ステーション(ISS)では、30日に宇宙飛行士2人が7時間11分の船外活動で新しい太陽電池アレイを取り付けた(新規。ScienceDaily)

昨日と同じこと(継続)

  • MMXは、2027年8月に火星圏へ到着し、2031年7月に試料を持ち帰る計画のままである。打ち上げ後の運用は続いている(継続)
  • 核融合では、実験装置での新記録の更新は今週も確認できなかった(継続)
  • 前回の超伝導体や細胞の若返りの研究には、今週は新しい追試や続報を確認できなかった(継続)

要因の連続性

  • 継続要因: 大型の公的施設(X線自由電子レーザー、加速器、宇宙望遠鏡)が、基礎研究の成果を支えている構図は前回と同じである
  • 新規要因: アルテミスIIIの計画の見直しで、月面着陸の前に民間の着陸船を軌道上で検証する段階が加わった
  • 解消した要因: 前回の注目予定だったMMXの打ち上げは完了しており、今週の注目点ではなくなった

今週の概観

今週(10月26日〜11月1日)は、理研が27日にアト秒X線レーザーの生成を、28日にX線の差周波発生によるテラヘルツ波の放射を発表した。米国では、RHICの最終運転期の酸素原子核の衝突データから、プラズマ生成の証拠が示された。宇宙では、ウェッブ望遠鏡が溶岩惑星の大気を調べ、アルテミスI計画の放射線測定の解析結果も論文になった。材料では、韓国のKAISTがリチウム金属電池の銅箔に微細な筒を並べる方法を報告した。実用化の面では、実証規模の大きな発表は、確認できた範囲では見当たらない。

分野別の主な成果

核融合・量子・材料

高エネルギー物理(RHIC): ブルックヘブン国立研究所のRHIC(相対論的重イオン衝突型加速器)は、酸素原子核を衝突させ、飛び出す高エネルギー粒子の流れ(ジェット)が、衝突でできた物質の中を通る間にエネルギーを失う「ジェット抑制」を調べた。200ギガ電子ボルトの衝突で、高エネルギー粒子の約20%の抑制を観測し、宇宙初期のような高温高密度の物質(クォーク・グルーオン・プラズマ)が、より小さな衝突系・より低いエネルギーでも生じた強い証拠だとしている。データはRHICの最終運転(2026年2月に終了)のものである。査読済み(Physical Review Letters 137巻17号)で、実験室規模の基礎研究である(ScienceDaily)。

電池材料: KAISTなどの研究チームは、半導体の製造技術(二次スパッタリング・リソグラフィ)で、銅箔の表面に直径約300ナノメートル、高さ約150ナノメートルの微細な筒を作った。表面積は平らな銅箔の約4倍になり、約10ナノメートルのMXene(二次元材料)の被膜で、リチウムが針状に伸びる「デンドライト」を抑える。論文はAdvanced Functional Materialsに9月1日付で掲載された(査読済み)。実験室段階で、電解液の変更や余分なリチウムを使わずに、電池を小型・長寿命にできる可能性がある(ScienceDaily)。

宇宙開発

ISSの電力増強: 30日、宇宙飛行士2人が7時間11分の船外活動で新しい太陽電池アレイを取り付けた。NASAがISSの電力を大きく増やす計画の一環である。運用上の作業で、新しい科学成果ではない(ScienceDaily)。

溶岩惑星TOI-561 b: ウェッブ宇宙望遠鏡が、地球から約280光年の岩石惑星TOI-561 bを、37時間(公転ほぼ4周分)観測した。公転周期は11時間未満で、星の光の約75%を反射していた。ケイ酸塩の雲が「日よけ」の役目をしている可能性があり、星の強い放射を考えると本来は失われているはずの大気を、保っているとみられる。論文はThe Astronomical Journalに掲載された(査読済み)。大気の組成は、より長い波長の追加観測で調べる予定である(ScienceDaily)。

アルテミスIの放射線: アルテミスIで、ポーランドの核物理学研究所が開発した蛍光の検出器(フッ化リチウムの結晶)を、人体を模したマネキン2体に入れて測った。月の近くの放射線は地球低軌道より多いが、予想ほど大きくはなく、バン・アレン帯(地球を取り巻く放射線帯)の影響がない。従来の検出器との差は15%以内だった。論文はRadiation Measurementsに掲載された(査読済み)。将来の宇宙飛行士の被ばく管理に使える可能性がある(ScienceDaily)。

日本発の成果

アト秒X線レーザー(理研・東京大学・大阪大学・JST、27日発表): 電子の超高速な動きを観測するための光源として、アト秒(100京分の1秒)のX線レーザーの生成と、その時間幅の精密な測定に成功した。Nature Photonicsに掲載された(査読済み)。パルス幅などの数値は、発表ページには載っていない。

X線の差周波発生(理研・高輝度光科学研究センター、28日発表): X線自由電子レーザー施設SACLAで、X線を固体に当てて、テラヘルツ波が出ることを世界で初めて観測した。X線領域での「差周波発生」(2つの光の周波数の差の光が出る非線形光学の現象)の初の実証である。Nature Communicationsに掲載された(査読済み)。

いずれも一次情報は理研の発表である(理研: アト秒X線レーザー、理研: テラヘルツ波放射)。27日には、慶應義塾大学などが、金星大気の「スーパーローテーション」(大気が惑星の自転より速く回る現象)の長期変動を、データ同化の手法で再現したことも発表された(理研: 金星大気)。

実用化への動き

アルテミスIII: NASAは、アルテミスIIIを月面着陸の前の、地球周回軌道での試験飛行に見直したと報じられている。ブルーオリジンの無人のNew Glennが月着陸船の試験機を打ち上げ、その後に4人の宇宙飛行士がSLSとオリオンで飛び、6日目にスペースXのスターシップV3の試験機が上がる計画である。打ち上げは2027年半ば、月面着陸は2028年を目指す。検索結果の要約にもとづき、原文の細部は未確認である(NASASpaceFlight)。

来週以降の注目予定

  • 12月10日: ノーベル賞の授賞式(ノーベル財団の恒例日程)
  • 2027年半ば: アルテミスIIIの軌道上試験飛行の目標(NASASpaceFlightの報道)
  • 来週の具体的な打ち上げや学会の予定は、今回の調査では確認できなかった