前回からの変化

前回(2026-09-21)との比較。

変わったこと(変化・新規)

  • 前回最大の話題だったヒト海馬のゲノム再編成研究(単一の研究チーム)から、今週は「PsychAD」コンソーシアムによるヒト大脳皮質の1細胞アトラス(9論文・提供者1,494人・細胞核630万個規模)へと、脳老化研究のスケールが一段と拡大した(新規・発展)。
  • 量子分野では、前回のシリコンスピン量子ビットによるqLDPC誤り訂正実証(Iceberg Quantum・Diraq)から一転し、今週はMicrosoftのトポロジカル量子ビット「Majorana 2」への米国防高等研究計画局(DARPA)による独立検証開始、IonQのリアルタイム量子誤り訂正デコーダ実証、スタンフォード大学によるフォノン(音の量子)の量子ジャンプ観測という、3つの異なる陣営・切り口からの進展があった(新規)。
  • JAXAが日本人宇宙飛行士・諏訪理氏のISS長期滞在ミッションの搭乗機を決定した。前回は宇宙開発分野で理研の基礎研究のみだったが、今週は日本人飛行士自身の新規ミッションが加わった(新規)。
  • NASAが新たな宇宙望遠鏡計画「PRIMA」を次段階(フェーズB)へ選定し、2033年打ち上げを目指すと発表した。前回のローマン宇宙望遠鏡(運用中のミッション)とは別の、新規ミッションの立ち上げである(新規)。

昨日と同じこと(継続)

  • 前回既報のSpaceX「クルー13」ミッションは、前回判明した9月30日からさらに1日順延し、10月1日打ち上げ予定となった。乗組員は9月26日にケネディ宇宙センターへ入り、最終準備が続いている(継続)。
  • 理化学研究所が継続的に基礎研究成果を発表するペースは前回から変わらず、今週も4件のプレスリリースがあった(継続)。
  • 核融合分野の大きな進展は、前回・今週とも確認できていない(継続)。

要因の連続性

  • 継続要因: 理化学研究所による継続的な基礎研究発表、有人宇宙ミッションでの安全確認優先の姿勢(クルー13のさらなる順延)。
  • 新規要因: 大規模コンソーシアムによる脳老化研究の規模拡大とアルツハイマー病研究への波及、量子ハードウェアに対する第三者(DARPA)検証という新しい動き、AIを創薬の道具として使う手法の実証。
  • 解消した要因: なし。

1. 今週の概観

今週(9月21日〜27日)は、脳科学分野で国際コンソーシアム「PsychAD」がヒト大脳皮質の1細胞アトラスをNature誌に9論文として発表し、加齢に伴う遺伝子発現の3段階変化とアルツハイマー病関連遺伝子の働きを明らかにしたことが最大の話題となった。量子分野では、Microsoftのトポロジカル量子ビットへの米国防高等研究計画局(DARPA)による独立検証開始、IonQのリアルタイム量子誤り訂正デコーダ実証、スタンフォード大学によるフォノンの量子ジャンプ観測という3つの動きが相次いだ。宇宙分野では、JAXAが日本人飛行士・諏訪理氏のISS長期滞在ミッションの搭乗機を決定したほか、NASAが新型宇宙望遠鏡「PRIMA」を次段階へ選定し、SpaceX「クルー13」の打ち上げは10月1日にさらに1日順延した。日本発の成果としては、理化学研究所が幼少期の栄養と寿命の関係やゲノムの脆弱部位に関する研究をそれぞれNature・Nature Communications誌に発表している。核融合分野では今週、大きな進展の確認情報はなかった。

2. 分野別の主な成果

核融合・量子

核融合分野では、今週(9月21日〜27日)に公表された大型の実験炉・民間炉の進展は確認できなかった。

量子分野では3つの異なる動きがあった。まず、Microsoftは9月22日、メリーランド大学と共同で新設した「量子研究センター」において、特殊な準粒子を利用しノイズに強いとされる「トポロジカル量子ビット」を用いた第2世代チップ「Majorana 2」への現地アクセスをDARPA(米国防高等研究計画局)に開放したと発表した。従来はリモートアクセスにとどまっていたDARPAが、現地で自らハードウェアを設置・操作できるようになる点が新しい。空軍研究所やロスアラモス国立研究所なども評価に加わる。トポロジカル量子ビット方式の性能主張については物理学者の間で依然として議論が続いており、DARPAによる独立検証はその真偽を判断する材料になり得る、実証段階の取り組みである(The Quantum Insider)。

次に、量子コンピュータ企業IonQは9月22日、量子誤り訂正(誤りを検出・訂正して計算精度を保つ技術)に必要な複雑な復号処理を、専用のハードウェアではなく市販の標準的なCPU1台でリアルタイムに実行できるデコーダーを実証したと発表した。論理量子ビット408個・演算3150万回に相当するベンチマーク回路で検証し、標準的なノイズ条件下での遅延はわずか0.02パーセントにとどまったという。実機の大規模量子コンピュータでの実証ではなく、ベンチマーク回路によるシミュレーション検証である点には留意が必要である(IonQ)。

さらに、スタンフォード大学の研究チームは、音の量子であるフォノンが一つのエネルギー状態から別の状態へ瞬間的に変化する「量子ジャンプ」を、世界で初めてリアルタイム観測したと発表した。長寿命の微小共振器と超伝導量子ビットを組み合わせ、2ミリ秒の間に数百回の測定を行うことで量子ジャンプの瞬間を捉えたという。査読を経て2026年9月にScience誌に掲載された基礎研究であり、量子誤り訂正や高感度の生体センサーへの応用が期待されている(Stanford Report)。

バイオ

国際研究コンソーシアム「PsychAD」は、ヒト大脳皮質(前頭前野)について、脳提供者1,494人・細胞核約630万個規模という過去最大級の1細胞アトラスを構築し、Nature・Nature Communications・Nature Medicine・Nature Genetics・Scientific Dataなど計9本の論文として発表した。査読済みの研究で、脳の遺伝子発現には「幼少期の急速な再編成」「中年期の安定期」「65歳前後から始まる第2の再編成(主にグリア細胞が主導)」という3段階のパターンがあることを明らかにし、アルツハイマー病関連遺伝子の多くが加齢したグリア細胞(脳の免疫細胞)で優位に発現することを示した。前回既報のヒト海馬のゲノム再編成研究(50〜75歳ごろに変化)と対象領域は異なるが、脳老化と免疫系細胞の関わりという着眼点は共通しており、脳老化研究がより大規模なデータで裏付けられた形である(MedicalXpress)。

AIを創薬の道具として使う研究では、米ニューヨーク大学の研究チームが、グラフニューラルネットワーク(構造データを扱う深層学習の一種)を用いて、創薬候補化合物中の水素原子の位置を予測する手法を発表した。GPU搭載の計算ノード1台で約460万化合物を3.2時間で処理し、従来の割り当てとは異なる水素原子の位置を持つ分子(互変異性体。同じ原子の組み合わせで水素の位置だけが異なる構造)を多数見つけ、これによりタンパク質標的とのあいだに新たな水素結合を形成しうることを示した。査読誌Chemical Scienceに掲載された研究段階の成果である(phys.org)。

宇宙開発

JAXAは9月25日、日本人宇宙飛行士・諏訪理氏について、国際宇宙ステーション(ISS)への長期滞在ミッションの搭乗機を「クルードラゴン14号機」に決定したと発表した。諏訪氏にとって初の宇宙飛行となり、打ち上げは2027年3月以降を予定する。具体的な打ち上げ日は今後発表される(JAXA)。

NASAは9月24日、新型宇宙望遠鏡計画「PRIMA」(遠赤外線観測による宇宙の歴史・進化の解明を目的とするミッション)を、同庁の探査機計画(エクスプローラー計画)の新しい区分「プローブ・エクスプローラー」の第1号として、開発の次段階であるフェーズB(予備設計・技術開発)へ選定したと発表した。打ち上げは2033年、運用期間5年を予定し、プロジェクト費用の上限は打ち上げ費用等を除き12億ドルとされる。今後、技術・計画・費用の観点からの確認審査を経て、実装段階(フェーズC)への移行が判断される(NASA)。

前回既報のSpaceX「クルー13」ミッション(国際宇宙ステーションへの有人飛行)は、ドラゴン宇宙船の推進系トラブルによる延期を経て、前回判明した9月30日からさらに1日順延し、10月1日午前11時10分(米東部夏時間)以降の打ち上げが予定されている。乗組員4人は9月26日にケネディ宇宙センターへ到着し、最終準備を進めている(Spaceflight Now)。

3. 日本発の成果

理化学研究所は9月24日、幼少期の栄養状態を「記憶」する貯蔵タンパク質「Lsp2」を特定し、その増減が寿命を制御することを発見したと発表した。ショウジョウバエ(体長2〜3ミリメートル、寿命約2か月)を用いた実験で、幼虫期にタンパク質摂取を制限すると成虫初期のタンパク質合成が抑制され、結果として寿命が最大2割程度延長される一方、体重は約1割減少し、産卵数は約3割低下することを確認した。査読を経て2026年9月にNature誌(オンライン版)に掲載された基礎研究段階の成果である(理化学研究所)。

理化学研究所は9月23日、神戸大学・科学技術振興機構(JST)との共同研究として、独自開発した1細胞ゲノム解析技術「scRepli-seq」を用い、DNA複製時のストレスによって生じる染色体の「壊れやすい場所」を網羅的に解析したと発表した。複製ストレスを誘導した細胞43個・未処理細胞44個を分析した結果、これまで知られていた染色体脆弱部位(CFS)に加え、性質の異なる複数の新規クラス(計5クラス)を新たに同定した。査読を経て2026年9月23日付でNature Communications誌(オンライン版)に掲載された基礎研究である(理化学研究所)。

5. 来週以降の注目予定

  • SpaceX「クルー13」の10月1日打ち上げが計画どおり実施されるか。
  • NASA「PRIMA」ミッションの確認審査(技術・計画・費用の評価、フェーズCへの移行判断)の行方。
  • MicrosoftのMajorana 2・IonQのリアルタイム誤り訂正デコーダなど、量子ハードウェアに対する第三者検証の続報。