前回からの変化

前回(2026-09-07)との比較。

変わったこと(変化・新規)

  • 米・イラン間の衝突が今週さらに拡大したことが新たに判明した。前回はCENTCOMによるイランのタンカー3隻への攻撃と、IRGCによる米空母・駆逐艦への弾道ミサイル攻撃の主張(米側は否定)を報告したが、今週はCENTCOMがイランの石油タンカー5隻を撃沈し、これに対しイランは10隻の船舶とヨルダンの米軍基地(ムワッファク・サルティ空軍基地)を攻撃した。IRGCはさらに、ホルムズ海峡入り口で米軍の無人潜水艇を「拿捕した」と主張したが、米中央軍はこの潜水艇について「欠陥品で機密情報・装備は搭載していなかった」と説明している(出典: Al Jazeera、CNBC)。
  • 米軍基地の被害の実態について、これまで米側が公表してこなかった規模が新たに判明した。海軍長官代行のハン・カオ氏は、バーレーンの海軍支援基地(第5艦隊司令部が置かれている)について「バーレーンをめちゃくちゃに破壊された」と述べ、2月から6月にかけての報復攻撃で指令センターと少なくとも12棟の建物が甚大な被害を受けていたことを認めた。ヨルダンのアル・アズラク基地(ムワッファク・サルティ空軍基地)への9月10日の攻撃では、発射された20発のミサイルのうち18発を迎撃したものの、A-10攻撃機1機が「翼を失う」被害を受け、F-15戦闘機8機も軽微な損傷を受けた。今年5月時点で、開戦以来42機の米軍機が破壊・損傷し、1基あたり約10億ドル相当の弾道ミサイル防衛システム3基も破壊され、中東8か国20か所以上の米軍施設が被害を受けていることが明らかになった(新規、Al Jazeera)。
  • ウクライナ戦線で、ISWが9月12日、リマン地区北方の露軍突出部がほぼ排除されたと評価した。これにより、露軍が計画していたドネツク州「要塞ベルト」への南北からの挟撃作戦の前提が崩れつつあり、露軍司令部は北部・南部両翼の作戦計画の見直しを迫られる可能性があるという。あわせてISWは、露軍幹部がプーチン大統領に80万人規模の追加動員を要請したと報じたが、露軍が同時に吸収できる新兵は30万〜50万人程度が限界であり、現在の損耗率が新規徴募のペースを上回る「持続不可能な消耗戦」に陥っていると分析した(新規、ISW)。
  • ゼレンスキー大統領が、ロシア・米国との三者会談を改めて提案し、黒海航行の安全確保や長距離攻撃の一時停止(モラトリアム)を交渉の出発点とする案を示していることが新たに判明した(新規、ISW)。前回報告した米特使団のモスクワ・キーウ訪問(9月5〜6日)を受けた具体的な次の一手として位置づけられる。
  • ウクライナは1月以降、ロシアの石油精製施設26か所を標的にした長距離攻撃を継続しており、ロシアのエネルギー部門の回復力と経済力を大きく制約しているとISWは分析している(新規、ISW)。
  • スーダンについて、国連安保理のスーダン専門家パネルの報告書の内容がより詳細に判明した。2025年10月26日のエルファシャル陥落から数日間で6千人超が殺害されたとし、RSFの司令官6人(アブデルラヒム・ダガロ氏ら)を名指しした。ある司令官は、非アラブ系コミュニティの女性・少女への性暴力を上級将校が直接指示していたことを認めたという。報告書は「これ自体は刑事有罪を構成するものではない」としつつ、戦争犯罪・人道に対する罪に該当しうる行為を記録している(続報・精緻化、Middle East Monitor)。前回報告した「外国勢力の関与拡大」という調査団報告の内容に、今回はエルファシャル攻略時の具体的な犠牲者数と司令官名が加わった。

昨日と同じこと(継続)

  • ガザでは、IDFの週報(9月6日の週)によれば、イエローライン以東での地下トンネルの無力化(累計26キロメートル超)が継続しており、ハマスが軍事能力の再建・司令部の再構築を進めているとの主張も変わっていない。前回報告したICGの「Hollow Promises」評価(7月のロードマップが履行されないまま停戦が実効性を欠いている)は今週も裏付けられた形である(出典: IDF Spokesperson)。
  • レバノン南部では、前回報告したヒズボラの無人機発射とイスラエルの反撃という膠着が継続しており、9月2日・4日・5日にもヒズボラの無人機発射があったとイスラエル側は主張している(出典: IDF Spokesperson)。
  • ウクライナ東部の膠着(コスチャンティニウカ、スロヴィヤンスク東方での限定的な露軍前進)は継続しており、3月以降ウクライナ側が主導権を維持しているという評価も変わっていない。

要因の連続性

  • 継続要因: ウクライナ和平交渉における領土問題、ガザにおけるハマス武装解除の順序を巡る対立、レバノンでの「先に撤退か武装解除か」を巡る膠着、スーダンにおける外国勢力の軍事支援。
  • 新規要因: (1) 米・イラン間の衝突が石油タンカー撃沈と基地攻撃の応酬という新たな段階に拡大したこと、(2) これまで非公表だった米軍基地の被害規模が明らかになったこと、(3) ウクライナがドネツク戦線で主導権を強め露軍の作戦前提を崩しつつあること、(4) スーダンの人権侵害の具体的な規模と責任者が国連報告で明示されたこと。
  • 解消した要因: 特になし。ただし米・イランの軍事衝突については、本日(9/14)オマーンで開かれる外相会談という外交的な出口を模索する動きが新たに加わっている(詳細は「和平・外交の動き」参照)。

今週の概観

過去1週間(9月7日〜13日)は、既存の紛争がいずれも新たな段階に進んだ週だった。米国とイランの対立は、米軍によるイラン石油タンカー5隻の撃沈と、これに対するイランの反撃(10隻の船舶・ヨルダンの米軍基地への攻撃、無人潜水艇拿捕の主張)という形でさらに激化する一方、週末にはこれまで非公表だったバーレーン・ヨルダンの米軍基地の甚大な被害の実態が明らかになった。もっとも週の終わりには、イランと湾岸協力会議(GCC)・イラクの外相が本日(9/14)オマーンで会談し、ホルムズ海峡の航行管理を協議する運びとなり、軍事衝突と並行して外交的な出口を探る動きも出ている。ウクライナでは、ISWがドネツク州リマン地区北方の露軍突出部の排除をほぼ完了したと評価し、露軍の作戦計画に狂いが生じつつあるとの分析を示した。ゼレンスキー大統領は米露との三者会談を改めて提案している。ガザとレバノン南部では前回に続き緊張が続き、スーダンでは国連専門家パネルが、エルファシャル陥落時にRSFが6千人超を殺害したとする詳細な報告書を公表した。

紛争別の週間動向

イラン・米国(ホルムズ海峡・域内基地攻撃)

事実として、米中央軍(CENTCOM)は9月8日から9日にかけ、イランの石油タンカー5隻を撃沈したと発表した。イランはこれに対し、10隻の船舶とヨルダンのムワッファク・サルティ空軍基地(アル・アズラク基地)への攻撃で応酬した。イラン革命防衛隊(IRGC)は、ホルムズ海峡入り口で米軍の無人潜水艇を拿捕したと主張したが、米中央軍は「欠陥品で機密情報・装備は搭載していなかった」と説明し、IRGCが主張した米艦船2隻への攻撃についても米側は否定している(出典: Al Jazeera、CNBC)。

ヨルダンへの攻撃では、発射された20発のミサイルのうちヨルダン軍が18発を迎撃したが、A-10攻撃機1機が翼を失う損害を受け、F-15戦闘機8機も軽微な被害を受けた。IRGCは今回の作戦を「侵略者への懲罰」と呼んだ(Al Jazeera)。あわせて、2月から6月にかけての一連の報復攻撃で、バーレーンの海軍支援基地(米第5艦隊司令部)の指令センターと少なくとも12棟の建物が甚大な被害を受けていたことが、海軍長官代行の発言で初めて公式に認められた。開戦以来、米軍機42機が破壊・損傷し、中東8か国20か所以上の軍事施設が被害を受けているという(出典: Al Jazeera)。

分析面では、この衝突拡大と並行して外交的な動きも進んでいる。イランと湾岸協力会議(GCC)加盟6か国、イラクの外相は本日9月14日、オマーン南部サラーラでホルムズ海峡の航行管理を巡る協議を行う予定である。イラン革命防衛隊はイラン・オマーン間で海域の分担と航行管理からの収益配分について既に合意していると説明する一方、テヘランは米国による海上封鎖の解除・凍結資産の解除・原油制裁の解除に応じない限り海峡を再開しないとの立場を崩していない(出典: CNN)。

ウクライナ

事実として、ISWは9月12日、ウクライナ軍がドネツク州リマン地区北方の露軍突出部をほぼ排除し、戦線がジェレベツ川沿いに集約されつつあると報告した。これにより、露軍がリマン・ドブロピリャ方面から計画していたドネツク州「要塞ベルト」への南北挟撃作戦の前提が崩れつつあり、露軍司令部は南北両翼の作戦計画を見直す必要に迫られる可能性があるという。コスチャンティニウカ周辺・スロヴィヤンスク東方では露軍が限定的な前進を続けているが、ウクライナ軍の反撃により複数方向で3月以降、露軍の前進はおおむね止まっているとISWは評価している(出典: ISW)。

露軍幹部はプーチン大統領に80万人規模の追加動員を要請したとされるが、ISWは、ロシア軍が同時に吸収できる新兵は30万〜50万人程度が限界であり、現在の日々の死傷者数が新規徴募のペースを上回る、持続不可能な消耗戦に陥っていると分析している。ウクライナは1月以降、ロシアの石油精製施設26か所を標的にした長距離攻撃を継続しており、ロシアのエネルギー部門の回復と経済力を大きく制約しているという(出典: 同上)。

外交面では、ゼレンスキー大統領がロシア・米国との三者会談を改めて提案し、黒海航行の安全確保や長距離攻撃の一時停止(モラトリアム)を交渉の出発点とする案を示している。前回報告した米特使団(ウィットコフ氏・クシュナー氏)のモスクワ・キーウ訪問を受けた具体的な進展の一つと位置づけられるが、本日時点で三者会談の実現時期は確認できない(出典: 同上)。

ガザ/イスラエル・パレスチナ

事実として、IDFの週報(9月6日の週)によれば、IDF部隊はガザのイエローライン以東に展開を続け、地下テロトンネルの無力化(累計26キロメートル超)を進めている。9月1日にはガザ市内でハマスの内部治安責任者が拘束されたとされ、IDFは、シュハダ・アル・アクサ病院の司令部から活動していたハマス指揮官の事例を挙げ、医療施設の軍事利用が続いていると主張している(出典: IDF Spokesperson)。

分析面では、前回報告したICGの「Hollow Promises」評価(7月のロードマップが履行されないまま停戦が実効性を欠いているとの指摘)が今週も裏付けられた形である。IDFの発表はイスラエル側の視点によるものであり、ハマス側の反論・第三者機関による検証は本日時点で確認できていない点に留意が必要である。

レバノン・イスラエル(ヒズボラ)

事実として、IDFはヒズボラが9月2日・4日・5日に無人攻撃機を発射し停戦に違反したと主張し、対抗措置として武器貯蔵施設・指揮センターを攻撃したと発表した。9月6日にはイスラエル軍による南レバノンへの攻撃で少なくとも4人が死亡、20人が負傷している(前回既報)。レバノン側は、3月の戦闘再燃以降4,300人超が死亡したと主張しており、先に撤退するか先に武装解除するかを巡る膠着構造は今週も変わっていない(出典: IDF Spokesperson、Al Jazeera)。

スーダン(エルファシャル・コルドファン戦線)

事実として、国連安全保障理事会のスーダン専門家パネルは、2025年10月26日のエルファシャル陥落から数日間でRSFが6千人超を殺害したとする報告書を公表した。報告書はRSFの司令官6人(アブデルラヒム・ダガロ氏、アル・ヌール・アル・クッバ氏ら)を名指しし、ある司令官が非アラブ系コミュニティの女性・少女への性暴力を上級将校から直接指示されていたことを認めたと記録している。陥落前のエルファシャル人口はおよそ26万人で、2026年3月1日までに約13万8千人が避難したとされる。報告書は「これ自体は刑事有罪を構成するものではない」と明記しつつ、戦争犯罪・人道に対する罪に該当しうる行為を記録したものである(出典: Middle East Monitor)。

前回報告した北コルドファン州の戦線については、7月にスーダン国軍(SAF)が大規模な地上攻勢を開始しアル・サダラト幹線道路と主要5地点を奪還したとされるが、本日時点でこれ以降の新たな専門機関の分析は確認できなかった。

緊張が高まっている地域

今週(9月7日〜13日)は、専門機関によるエスカレーション警告として新たに取り上げるべき地域は確認できなかった。前回取り上げたミャンマーについては、ACLEDから2026年上半期の分析(民間人殺害の急増、450人超の死者)は確認できるものの、今週固有の新規分析は確認できず、構造的な対立要因(軍による民間人への攻撃継続)は未解決のままである。

和平・外交の動き

イラン・GCC・イラクの外相は本日(9/14)、オマーンでホルムズ海峡の航行管理を協議する。イラン側は米国による海上封鎖の解除・資産凍結の解除・原油制裁の解除を条件としており、本日の会談だけで危機が解消するとは限らない(詳細は「イラン・米国」節を参照)。ウクライナを巡っては、ゼレンスキー大統領が米露との三者会談を改めて提案し、黒海航行の安全確保・長距離攻撃モラトリアムを交渉の出発点とする案を示しているが、実現時期は未定である。ガザ・レバノンでは、外交面での新たな進展は今週も確認されなかった。