前回からの変化

前回(2026-09-17)との比較。

変わったこと(変化・新規)

  • 前回は再利用ロケット「Space Epoch」・非対話型AIモデル「TypeSafe AI」・炭素ナノ材料「iGii」・産業用ワールドモデル「Noetive」という宇宙・材料・工場向けディープテックが顔ぶれだったが、今回は一転して「AIの計算能力そのものを金融商品化する」(Liquid Compute)、「保険契約の隠れた採算構造を可視化する」(Soteris)という、金融・保険の仕組みそのものを対象にした新業態が中心となった。
  • 潮流欄も、前回の「AI・深層技術が物理世界へ広がる動き」から一転して、今回は「対面での人と人のつながりを独立した投資領域とみなす動き」を取り上げており、AIへの投資集中に対する揺り戻しが再び話題になっている。

前回と同じこと(継続)

  • 「大型の資金調達がAI・ディープテック関連に集中する」という大きな方向性は前回から続いている。前回のSpace Epoch・Noetiveが示したハード・インフラへの投資熱は、今回のLiquid Compute(AI計算力の金融商品化)にも共通する形で継続している。

要因の連続性

  • 継続要因: AI関連の投資家の関心は、今回もインフラ・仕組みづくりという「AIを支える土台」への投資という形で継続している。
  • 新規要因: AIの計算能力を証券・商品のように取引可能にするという金融インフラの新設(Liquid Compute)、保険業界特有の複雑な収益配分構造を解きほぐすAIツール(Soteris)が、今回新たに話題化の要因として加わった。
  • 解消した要因: 前回話題の中心だった「宇宙・材料科学・工場向けディープテック」は今回は取り上げておらず、話題としては後退した。

新ビジネス特集

1. Liquid Compute(米国)— AIの計算能力を先物のように取引する規制市場

何をするビジネスか Liquid Compute(ニューヨーク拠点、旧社名Pluto)は、データセンターのGPU・計算能力(コンピュート)を、証券や商品先物のように売買できる規制市場の構築を目指すスタートアップである。共同創業者のロニット・ジェイン氏とアーラヴ・パテル氏は、カリフォルニア大学バークレー校の工学生時代に出会い、「計算能力は原油のような従来型の商品市場ではなく、電力網のように組織されるべきだ」という発想にたどり着いたという。

何が新しいのか これまでAIインフラの計算能力は、データセンター事業者とAI企業が個別に相対契約を結ぶ、断片化された市場だった。Liquid Computeは、この分散した物理的な計算能力を、透明性の高い標準化された「計算力グリッド」としてつなぎ直し、さらに金融機関が計算能力への価格付け・リスク管理・ヘッジを行える規制された取引の場を提供しようとしている点が新しい。急拡大するAIインフラの物理市場と、それを取引・調達・ヘッジしたい金融機関との間に立つ仕組みを作ろうとしている。

ビジネスモデル 計算能力の買い手・売り手をつなぐマーケットプレイスの手数料に加え、将来的には現金決済および現物決済の先物契約を取り扱う取引所としての手数料収入を見込む。米商品先物取引委員会(CFTC)に対し、指定契約市場(DCM)およびデリバティブ清算機関(DCO)としての資格を申請中である。

状況 FirstMarkとChemistryが共同主導する1500万ドルのシードラウンドを獲得し、K8 Capital・Night Capital・TrueBridge・Brainchild Holdings・UFO Holdings、エンジェル投資家のドミトリー・バリアスニー氏も参加した。Y Combinator(2024年冬季)出身。CFTCへの規制資格申請が承認されるかどうかが、事業化の鍵となる。 (公式: Liquid Compute / 出典: Yahoo Finance、Dealroom)

2. Soteris(米国)— 保険契約1件ごとの「見えない赤字」をAIで可視化

何をするビジネスか Soterisは、損害保険(P&C保険)の引受会社・保険代理店(MGA)向けに、AIを使って個々の保険契約が実際にどれだけの利益をもたらしているかを可視化するツールを提供するYコンビネーター出身企業である。

何が新しいのか 従来の保険業界は、契約ごとの「損害率の予測」には力を入れてきたが、その契約が実際に会社にもたらす「利益」の予測は別問題として扱われてこなかった。1件の保険契約の収益は、販売・サービス提供を行う会社、州免許を保有する会社、資本を提供する会社など複数の関係者に分配されるため、損害率が低くても必ずしも利益につながらないケースがある。Soterisは、この「損害率」と「実際の利益」のズレを契約単位で特定できる点が新しい。同社はこれまでも2020年から損害率の精度向上を支援しており、1億件超の契約申込・1800億ドル超の保険料データを蓄積してきた実績がある。

ビジネスモデル 損害保険の引受会社・MGAに対し、契約ごとの利益予測・採算悪化要因の特定を行うSaaSを提供する。

状況 Spider Capitalが主導し、Intact Private Capital・Amplify Partners・DCVC・Webb Investment Network・Overlook Venturesが参加する800万ドル超のシード資金を獲得した。5年以上の製品開発期間を経てステルスから登場した。実際の商用導入による利益改善効果の第三者検証は、本レポート作成時点で確認できていない。 (出典: fintech.global、Insurance Business)

新ビジネスの潮流

米国では、「人と人を対面で結びつけること」自体を独立した投資領域とみなす動きが再び注目されている。かつてバレエダンサー出身のブリン・パトナム氏が立ち上げたコネクテッドフィットネス企業Mirrorをルルレモンに5億ドルで売却した例や、WeWork共同創業者アダム・ニューマン氏が「孤独の解消」を掲げて始めた住宅型コミュニティ事業Flow(4億5000万ドル超を調達、主にアンドリーセン・ホロウィッツから)が象徴例として挙げられている。もっとも、見知らぬ者同士を実際に集める仕組みはソフトウェアの配布のようにはスケールしにくく、この分野が本当に大きな投資カテゴリーになるかは意見が分かれている。生成AIへの投資が過熱する裏側で、「AIに代替されにくい対面体験」への揺り戻しとして位置づけられる動きである。 (出典: TechCrunch)